木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第17回】 ベトナムから来た店員さん

■行きつけのラーメン店で働くベトナム人

 第8回目のブログで、私が行きつけのラーメン店のことを書きました。その店には支店が何軒かあります。店の方針なのかも知れませんが、同じ店員さんが長く居ることはなく、1年くらいで若い新人に変わります(責任者は別です)。

 すぐに新入りと分かります。ぎこちなく、緊張していて表情が硬いです。それがふた月も経つとすっかり店員として板につき、場慣れしてくるのです。手順と要領が身につき、その店の雰囲気に馴染んできたのが分かります。やはり仕事というものは人を育てるものであり、そうしてテキパキと応対する姿を見るのは気持ちのいいものです。

 それでも次第に、「あぁ、この人は接客業に合っているな」と思われる人と、そうでない人が出てきます。やはり気配りですね。例えば出来上がったラーメンをテーブルに置いてくれる時、声だけをかける店員と、そこに笑顔を添えて出す店員とでは受ける印象が違います。笑顔と一緒に持ってきてくれたラーメンは、いっそう美味しく感じます。 

 

 最近では色んな所で外国人が働くのを目にするようになりました。人手不足の解消と賃金の安さの為でしょうか。特に飲食店などに多く見かけます。

 私の行きつけのラーメン店でも、昨年の11月頃から、6人の若い女性外国人が働いています。中国の方かなと思ったのですが、少し感じが違うのです。聞くところによるとベトナムの方でした。この6人が日替わりで、3人ずつお店に立っています。

 言葉や習慣も違う国から来たのですから、慣れるまでには苦労があると思います。やはり緊張しているのでしよう。硬い表情というより、ちょっと恐い感じさえ受けることもありました。注文の品を言っても、1回では聞き取れず、2、3回聞き直すこともあります。レジを打ち込む時も、違う品を入力したり、見落としてしまうこともあります。まごついている様子を見て、責任者が駆け寄ってくることもありました。

 

 それでも次第に慣れてくるのが分かります。注文の品が分かりにくい時は、傍にある品書きを指差して確認する工夫などもします。しかし中には、なかなか接客が上手くいかない人もいます。性格的なものや日本語の難しさなどもあるのでしょう。「日本でうまくやっていけるのかな」と、ちょっと心配になるほどでした。

 ある時、その店員さんが調理場にいるのを見ました。チャーハンを炒めたり、餃子を焼いていました。接客と違って、ものを相手にする作業が合っていたのか、とても生き生きとした表情をしていました。おどおどした感じはなくなり、落着いた雰囲気が出ていました。やはり適材適所は大事なことなのですね。

 

■僅かながら違う金額…?

 

 さて昨年10月から消費税が変わりました。しかし単一に10%になったのではなく、店内で飲食するのと持ち帰りでは税率が違います。これがベトナムの店員さんには中々厄介なようでした。

 実はこのお店では、持ち帰りも扱っているのです。私は週1の割合で、昼食用にチャーハンと餃子を作ってもらい、家に持ち帰って食べています。母も好物とみえて、毎週楽しみにしています。私も店で料理が出来るのを待っている間、レモンハイを飲めるという密かな楽しみがあります。チャーハン2人前と餃子、そしてレモンハイ1杯。〆て1,414円です。

 ところが支払うごとに、僅かながら金額が異なっているのです。最初は気づかなかったのですが、何回か重なるうちに変だなと思うようになりました。ある時は1,432円だったり、1,435円の時もあるのです。同じものを注文しているのに、何故違うのだろう?

 

 もしかしたら、消費税率の違いが原因かも知れないと思いました。チャーハンと餃子は持ち帰りだから8%。レモンハイは店内で飲んだのだから10%です。レジで清算する時に、それらが正しく割り振られていないのではないか。レシートで確かめてみると、やはりそうでした。

 何回目かの会計時に、それとなく言ってみました。「消費税は8%と10%があって大変だね」 「ハイッ」という明るい声が返ってきました。そして渡されたレシートには1,432円と印字されていました。やはり間違っているのです。

 本来ならそこで誤りを指摘して、正しい金額に訂正してもらうのでしょう。しかし私は言いたくないのです。ようやく店員として慣れてきたベトナムの人です。時おり笑顔さえ見せるほどになりました。ここでまた細かいことを言って、自信を失くしてしまうのは忍びないのです。『その内に気がつくだろう。たいした金額でもないし‥‥』 そう思って1,432円を支払うのでした。

 もちろん正確に1,414円とレジ会計する時もあります。6人居る中で、レジ扱いが得意な人と苦手な人がいるのです。

 

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母も気に入っているチャーハン

■懐かしさを感じさせる表情

 そして、そんなことも忘れかけていたある日のことです。例によって持ち帰りの品が出来たので、レジで会計を待っていました。

 すると、別のベトナム人店員さんが傍に来て、「どうもすみませんでした」と頭を下げたのです。そして数枚の10円と1円硬貨を差し出しました。責任者の方も来ました。

 やはり気がついてくれたのです。このお金は今までの差額分なのだと分かりました。何よりも心に残ったのは、「どうもすみませんでした」と頭を下げた時の、ベトナム人店員さんの真面目な顔でした。それはとても素直な目でした。

 私はその表情に何か懐かしいものを感じました。そうです、かっての日本人が持っていた、実直な律義さを感じさせる顔です。私は頷いて、その何枚かの硬貨を受け取りました。

 異国の地で働くことは、口では言えないこともあるに違いありません。嫌なことにも出合うでしょう。でも、その素直な目を失わないでほしい。そして、日本に働きに来て良かったと思えるようになってもらいたい。これからの日本はますます少子高齢社会になり、外国の若いあなた方のような力を必要としているのです‥‥。

 店で飲んだ一杯のレモンハイが効いて来たのでしょうか、ほろ酔い気分になった私は、そんな取りとめのないことを思うのでした。信号が黄色になったので少し急ぎ足で歩くと、ポケットに入れた硬貨がチャリンと音を立てました。