木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第79回】株の動きに動かされ

 3月4日月曜日のことでした。食事をしながらいつものようにテレビでニュースを見ていました。なにやら大声で騒いでいる様子です。一体なんだろうと、改めて見てみると、日経平均株価が40,000円を突破したという知らせでした。株を扱っている関係者たちが歓声を上げていました。

 「フ~ン株価か。少しは景気がよくなっているのだろうか。良くなれば勿論いいけれど、年金暮らしの自分には余り関係がないな」、といった具合で、遠いよそごとの風景として聞き流していました。

 その夜のことです。寝床に入ってふと思い出したのです。「そう言えば、自分は個人年金に入っているけれど、その運用には株価が影響している筈だ」と。今から18年前、私は長年勤めた会社の退職金の一部を個人年金保険に預けたのでした。ある程度まとまった金額でした。保険会社はそれを資金として株相場でやりくりします。

 

 預けた保険金は15年間の待機期間の後、10年間を個人年金として受取るか、一時金としてまとめて受取るかを選べるシステムになっていました。10年間を個人年金として受取る利点は、当初預けた額の110%が保証されることでした。一時金としてまとめて受取る利点は、株価の動きに合わせて、条件のよい有利な額と判断したら、いつでも引き出せる点でした。

 

 そして15年間の待機期間を終えた時、個人年金を選びました。私は株のことは何も分りません。株価とにらめっこするより、堅実な110%が保証される方がいいと思ったのです。既に4年間分の個人年金を受領しました。あと6年間分が残っています。このままあと6年間を個人年金として受取ることも出来ますし、あるいは解約して残高を一時金として受取ることも出来るのです。

 

 問題はこの残高でした。前述のように保険会社は預かった金を株相場でやりとりしています。日経平均株価が40,000円を突破したという事は、預けてある残高も通常より高額になっている筈です。

 早い話が、今後6年間、個人年金として受取る総額と、解約して一時金で今受取る額のどちらが高額かということです。いくら株に疎い私でもその位は分ります。さっそく保険会社に今の残高を問い合わせました。確かに現時点ならば、一時金として受取った方がはるかに高額で有利でした。私の気持ちは、解約して一時金で受取る方に大きく傾きました。つい昨日まで、そんなことは微塵も考えていなかったのにです。

 

 次に頭を横切ったのは税金や諸経費のことです。一時金として受取れば、所得税が掛かります。通年より所得が多ければ、後期高齢者医療保険介護保険の保険料も高くなります。住民税もしかりです。果たしてどの位の負担増になるものか。今までは気にしていなかったそれらが、どういう計算の元からはじき出されるのか、その仕組みを初めて確かめてみる有様でした。

 

 一番心配したのは、医療機関にかかった時の後期高齢者医療保険の自己負担割合がどうなるかでした。年金生活者の多くは1割負担です。所得が多くなれば2割、3割となります。この自己負担割合というのは私個人だけの問題ではないのです。一世帯単位で割り当てられるため、私の母親にも影響するのです。

 母の年金収入は微々たるものです。母だけなら当然1割負担です。しかし私が一時金を受け、その年の所得が多くなり、自己負担割合が2割もしくは3割となれば、同じ世帯員として母親も同じく2割、3割となってしまうのです。今年98歳になる母は、何かと医療機関にかかる機会が多いです。年金収入は変わらないのに、自己負担割合だけが私と連動して高額になってしまうのです。それが一番気がかりでした。

 計算してみた結果、3割負担は免れましたが、どうやら2割負担の範ちゅうに入るようです。こんな事も今回のことがなければ、全く気にもしないものでしたのに‥‥。

 

 結局は、個人年金を解約して一時金を受取りました。その決断をする2,3日間というものは、そんな計算ばかりをしていました。また、株価は日毎に変わるものですから、自分が解約した決算当日の日経平均株価がとても気になりました。本当にお金というものは人を動かします。まさかこの自分が、株のことで振り回されるとは思いもしませんでした。

 一時下がった株価も一昨昨日の終値は39,740円となり、一昨日はまた日銀がマイナス金利政策の解除を決めたということで、2週間ぶりに40,000円台を回復したということです。今日もまた、めぐる株の動きに一喜一憂している人が大勢いることでしょう。そんな暮らし方は気の弱い私にはとても耐えられるものではありません。それこそ寿命が縮まってしまいます。もう株なんてこりごりです。

 という訳で、柄にもなく株と関わってしまった、一顛末をご報告いたしました。