木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第71回】足場が足掛かりとなって

 以前、わが家の外壁塗装を検討していることを述べました(第67回目です)が、結論として実施することにしました。今年の10月中頃を予定しています。そして業者の方とお話していく中で、外壁塗装をする上でひとつ困った事が分りました。工事に必須な足場を組むためには、隣家の敷地内に作業員が立ち入らなければならないと言うのです。

 わが家は東側、南側、西側の三方が隣家に取り囲まれています(それゆえ日当たりがとても悪いです‥‥)。北側だけは道路に面しています。問題箇所は西側なのです。建物と塀(というよりは柵に近い簡素なものですが)との幅が余りにも狭く、このままでは足場を組む作業者が身動き取れず、どうしても隣家に入らせてもらわなければ作業が出来ないのです。

 

 実はこの西側、以前には車1台が通り抜けられる位の道路があったのです。25年前に外壁塗装をした時はその道路があったので、足場を組む時にも何ら支障はありませんでした。

 当時この西側一体は大企業A社の社宅が立ち並んでいました。しかし社宅がなくなり、跡地が戸建住宅地になった時に、その道路もなくなってしまったのです。西側の隣人には申し訳ないが、どうしても敷地内に入らせてもらわなければなりません。工事は10月中頃ですが、こうゆうことは早めに連絡・お願いをしておかないといけません。早速事情を説明して、敷地内に立ち入ることのお願いをしました。隣家の方は気持ちよく了解してくださいました。

 

 そんな事を切っ掛けに、「実は‥‥」と、今度は隣家の方から話を持ちかけられました。何のことかと思ったら、西側の隣家との境にある塀のことでした。材質は鉄なのですが、長い年月の間に塗料が剥がれ、所々は腐食して欠け落ちているひどい塀です。それを気にしているようでした。

 なにしろ45年前にわが家を建てた時に取り付けた塀です。古いのは当然です。道路に面している北側の塀も同じ様な状態です。私もそのことは知っていました。しかし塀だけを新しくしても、実際に住んでいる家そのものが古いのです。バランスが合わないと思い、古いものは古い同士がいいと、今まで放置しておきました(ただ門扉だけは防犯上のこともあり、数年前に新しくしました)。

 

 前述したように西側の境は幅が狭く、人が1人やっと通れるしかありません。従ってそこは余り利用せずにいたのです。それゆえ塀が古くて汚くても、当家としては何ら差し障りがなかったのです。ところが西側の隣人(以後Kさんと称します)にしてみると、そこは門から玄関にいたる場所で、古くて汚い塀はとても目障りのようでした。

 勿論、面と向かって「目障り」という表現はしませんでしたが、Kさんの話し振りからすると気になっていたようです。Kさんはこの西側が道路だったことも知りませんでした。塀も、社宅がなくなり戸建住宅地になった時に、建設業者が取り付けたと思っていたようです。

 Kさんはとても綺麗好きらしく、門から玄関にいたる敷地もきちんと整備されており、建物の外壁塗装もしっかりとされています。掃除も行き届いておりゴミ処理も完璧です。そんなKさんにしてみたら、西側の塀の古くて汚れているのは、美意識が許さなかったに違いありません。

 

 建物や塀を維持するということは、自分だけの問題ではなかったのですね。近隣との調和が大事だということが分りました。自分の家の事だから、どんな有様でも勝手ではないかというのは間違った考えでした。自分では見えない箇所、気づかない部分も、他の人にしたらとても気になることがあるのでした。Kさんは長い間いやな思いをしていたことでしょう。

 しかし近隣の間でこうした事を話題にするのは、中々難しいものです。今回たまたま足場のことで話しやすい切っ掛けが出来たのだと思います。

 改めて思うに、こうして口にはしないが、不満だったり気にしていることは案外多いのではないでしょうか。そこで大事なのは、相手の立場になって考えてみるということです。想像力を持つことですね。もし私がKさんの立場であったら、やはり古くて汚い塀は目障りだと感じたことでしょう。自分のところが綺麗なだけに、よけい目に付いた筈です。

 しかし中々そんなことは隣人に言えない。そうしたジレンマがあったのではないでしょうか。足場のことからKさんの思っていることが分り良かったです。文字どおり、足場が足掛かりになったという訳です。

 

 Kさんと話し合っている内に、ひとつの案が出てきました。塀を新しくすることは手間も費用もかかります。そこで塀はそのままにしておいて、Kさんの方から見える側に、綺麗なシートか何かで塀を覆うという方法です。つまり古くて汚い部分を覆い隠してしまうのです。そんな工夫を思いついたことで、Kさんは嬉しそうでした。

 今年の秋には、わが家の外壁も塗り替えられ、塀にも飾りシートが付けられます。さてどんな風に変身するか今から楽しみです。