木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第44回】雨の牡丹花

 今年は桜の開花が早かったですね。桜前線はあれよあれよという間に北上していきました。川崎大師の近くに住んでいるわが家は、多摩川にも近いです。自転車で30分ほど行った先には、羽田空港へと続く新しい橋が建設されているのが見られます。

 その地域は「キング スカイフロント」と銘打って、健康・医療・福祉・環境といった、世界が直面している課題の解決に貢献するとともに、この分野でのグローバルビジネスを生み出すことで、日本の成長戦略の一躍を担う目的で開発が進められています。「スカイフロント」とは、羽田空港の目の前という立地や、このエリアが世界につながっていることを表しているそうです。

 その近辺の多摩川土手は桜並木が続き、この季節になると花見が楽しめます。私はその建設中の橋を見がてら、花見を楽しみました。ちょうど昼時でもあったので、途中でおにぎりを買いました。柔らかい日差しの中で、桜を眺めながら頬張る握り飯は、また格別の味でした。

 

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 それにしても暖かい日が続きました。わが家の庭を見ると、いつのまにか牡丹の花が咲き始めていました。例年ですと4月下旬頃に咲くのですが、もう開いていたのです。この牡丹は、13年前に89歳で亡くなった父が、前年の秋に市民祭りで買い求め、植えたものです。従って、この花が咲くのを父は見ていません。その後ずっとこの季節になると咲き続けています。

 今年は9ケの蕾を持ちました。開花すると、花びらは直径18cmほどの大きさになります。3ケ開花し、あとは2,3日で花開く蕾でした。待ち遠しいです。ところが、天気予報を聞くと、その晩から雨が降るとありました。牡丹の花は雨に弱いのです。せっかく咲き始めたのに、雨に打たれるのは残念で勿体無いです。

 こんな時のために、古くなった行楽用ビニールシートを取っておきました。木の枝や植木の棚を利用して、牡丹の上に雨避けシートを張りました。なんだかんだと小1時間ほどかかりました。

 

 やはり予報どおり、夜から雨になりました。窓から覗くと、シートはしっかりと牡丹を雨から守っていました。小1時間かけた手間が無駄にならず、ホッとしました。翌朝、まだ曇ってはいましたが、雨は止んでいました。シートのおかげで牡丹は雨に打たれることなく無事でした。出来るだけ日光に当てたい。例え曇っていても、シートに覆われてない方がいいと思い、すぐにシートを外しました。花びらが風に揺れ、気持ち良さそうです。

 ところがどうしたことでしょう、空が次第に暗くなり、雨が降ったり止んだりしてきたのです。天気予報では午後からは雨にならない筈です。雨模様を見て、この程度ならそんなに牡丹に影響はないと判断しました。昔と違って、今の天気予報は正確です。1週間くらいの予報を見ても、そんなに外れることはありません。間もなく止むに違いないと思いました。

 ところが、午後になっても降り続けているのです。確かに午後からは止むと言っていたのにです。その内に止むだろう、もうすぐだろう‥‥。そんな期待を持って、なんだかんだと時間が過ぎていきました。

 ふと気づくと、雨音がはっきりと聞こえるほどになりました。外を見るとかなりの降りです。こんな雨の中では、再び木の枝や植木の棚を利用して、また小1時間かけて雨避けシートを作りなおすことは出来ません。「あぁ、失敗した。なぜ早々とシートを外してしまったのだろう。もう1日くらい様子を見て、完全に晴れると分ってから外すべきだった」と悔やみました。

 傘を差して、不自由な思いを我慢すれば、雨避けシートを張りなおすことは出来るでしょう。しかしそこまでする熱意は、私には湧きませんでした。予報どおり、早く雨が止むのを願うばかりです。しかし意地悪な雨はその後も降り続き、夜になってもシトシトと音を立てていました。

 

 朝になり、まっ先に庭を見ました。雨はすっかり上がって陽が差していました。しかし牡丹の花びらはうなだれて、見る影もありません。ああもう1日待てばよかったのにと、再び悔やみました。ちょっと大げさですが、天候に左右される、農作物に従事する人の気持ちが分るような気がしました(もちろん私の場合などは、その万分の一にも及びませんが)。

 そんな無残な牡丹を見ると、自分の不甲斐なさが思われて、できるだけ庭の方を見ないようにして過ごしました。夕方になって雨戸を閉めるとき、そっと見てみました。うなだれていた花が、心なしか上向きになって、元気を取り戻したような感じでした。風に吹かれ陽の光にあたったのが良かったのでしょうか。

 次の日、お昼ごろになると、花びらの1枚1枚が生気を取り戻し、牡丹の花らしくなりました。雨に打たれたのが、咲き初めだったことやまだ蕾の状態だったことが幸いしたのでしょうか。再び庭が華やかになりました。

 

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 それから1週間が経ちました。幸い天気に恵まれ、牡丹の花は咲き続け、なんとも言えぬ芳香を漂わせてくれました。一度は諦めただけに、ことさら嬉しいです。わざわざ近所の親しい人に声をかけ、見てもらいました。皆さん、奇麗だと褒めて下さいました。

 父さん、今年も咲きましたよ。