木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第61回】 椅子の脚に包帯を  

 私の母は先月96歳になりました。以前(80歳頃)から足が弱く、自力で歩くのがままなりません。それでも手すりや物に掴まって、なんとかトイレには行けます。椅子に座って台所の流し台に向かい、糠みそ漬けや果物の皮むきくらいは出来ます。何よりも認知症の心配がなく、会話や意思の疎通がはかられるのが有り難いです。

 唯さすがに疲れやすく、日中のほとんどはベッドで横になっています。眠っているわけではなく、声をかけるとすぐに返事が返ります。目新しいことやこれと言った楽しみはありませんが、穏やかで静かな時間を過ごしています。

 

 そんな母ですが、2カ月ほど前のこと、左足に5cm大の水ぶくれが出来ました。ちょうど踝の少し上辺りです。袋状になった水ぶくれの中で、体液がブヨブヨ浮いているのが見えます。いきなりこんな大きな水ぶくれが出来たので驚きました。すぐに在宅診療のN先生に来てもらいました。母は定期的に月2回の在宅診療を受けていますが、何かあったらいつでも(夜中も)来てもらえるのです。

「どこかにぶつけましたか?」と問われましたが、そんな覚えのない母です。特に痛みもありません。とにかく応急処置をしてもらいました。そして3日も経つと水ぶくれの皮が破れてしまいました。N先生はすぐに大きな病院に連絡して、詳しく診てもらえるよう手配してくれました。5cm大の皮がやぶれたところは、かなり深くえぐれてしまいました。褥瘡や潰瘍と同じ状態です。幸い痛みは薬で抑えられています。肉を盛り上げる薬を塗付し、完全治癒するには半年ほどかかると言われました。それでも日常の生活は出来ているのでホッとしました。

 

 ところが、それからしばらくすると、今度は右足の脛にやはり5cm大の脹らみが出来たのです。すぐにN先生に診てもらいました。内出血でした。今度もどこかにぶつけた様子もないのです。こちらは特に治療方法はなく、内出血が自然に引くまで包帯を巻いておくだけです。これもかなり日数がかかると言われました。

 一番気がかりなのは原因が分らないことです。左右の足の大体同じような箇所に、何故こんな水ぶくれや内出血が出来たのか。本当に不思議でした。医師の所見では、体の内部からの発症ではないということです。それならば外的な問題がある筈です。そんな思いで母の行動を見てみると、ある事に気がつきました。

 

 母は居間で食事やテレビを見る時に、椅子に座っています。座っていますが、ただじっとしている訳ではありません。立ったり座ったりしています。特に食事をする時にそうです。最近食事をする時に立って食べることが多くなったのです。指の力が弱ったのか、ごはんやおかずをこぼしやすくなったのです。それが床に落ちてしまいます。それが嫌で、立って食べるのです。

 立つことで体全体が前に向き、例えこぼしてもテーブルの上だけで済むからです。また背が低いので、立った方がテーブルに対してちょうどいい高さになるようです。そんな訳で、椅子から立ったり座ったりすることが多くなりました。

 どうもその時に足を椅子の脚に擦っているようなのでした。それはほんの微かな摩擦かも知れません。しかし何かのはずみで強く当たったりするのではないでしょうか。またはその微かな摩擦の積み重ねが水ぶくれや内出血の要因になったのかも知れません。

 そうした目で椅子の脚を調べてみました。すると足の傷と同じ位置に、椅子の脚に出っ張りがあるのに気づきました。おそらくそれが原因ではないかと推察します。立ったり座ったりしている内に、その出っ張り部分と足が、擦れあっていたに違いありません。

 

 立ったり座ったりする回数が多いのが良くないのです。座って食事の出来るよう、母の背丈に合った椅子を探してみました。しかし特に背の低い人向け用というのがないのです。高さを調整出来るタイプはあります。ところがそうしたものはかなり重いのです。母が自分の手で自由に動かせる、軽い椅子でなくてはいけません。そのために今は籐製を使用しているのです。

 座面に厚手の座布団を敷くことも考えました。すると今度は、座るときにひと苦労なのです。座面が高くなると、お尻が届きにくいのです。

 椅子ひとつでも、老齢で不自由な身に叶ったものというのは中々難しいものです。でも何か対処せねばなりません。そこで考えたのが、椅子の脚に包帯を巻くことでした。脚の出っ張った部分に包帯をぐるぐる巻いて、凸凹がないよう平坦にするのです。母の足が椅子の脚に擦っても滑らかになるようにするのです。

 今は母の両足に包帯を巻いていますが、治癒して包帯が取れたら、今度は椅子に包帯を巻きます。何だか可笑しな話ですが、早くそんな日が来るのを待っています。