木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第57回】何か予定があるということ

 ふた月前までは寒さに震えた日があったというのに、この頃では夏を思わせるような暑い日があります。よく言われることですが、本当に春が短くなったと感じます。寒暖の差が激しくなってきました。

 それでも、外に出て初夏の陽射しを浴び、吹き来る風に身を任せていると、若かりし頃に会社の夏休みを利用して東北旅行をしたことを思い出します。6歳年上の友人が岩手県北上市に住んでいました。横浜にある会社に勤めていたのですが、郷里にUターンしたのです。年に1回、再会旅行と称して、岩手県を中心に東北の温泉巡りをしたものでした。

 夏休みという開放感もあり、日頃のストレスを発散して自由を満喫しました。10年位続いたでしょうか。やがて友人が結婚して子供が出来てからは旅行もままならず、年賀状のやり取りだけが続いていました。

 

 その友人が肝臓がんで亡くなったとの知らせを受けたのは、今年の1月でした。享年80歳。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言や母親の見守りなどのこともあり、葬儀には行けませんでした。50年来の友人です。とても残念でした。

 私は毎年8月のお盆には、ゆいま~る那須に数日間滞在するのを恒例としています。しかし今年のお盆には、北上市の友人の墓参りをしようと思っています。新盆に当たるのです。

 年を取ることの寂しさのひとつに、親しかった友人との別れがあると、若い頃に何かの本で読んだことがありました。当時はピンと来ませんでしたが、ここ数年の間には実感として身に染み込んできました。

 

 さて、心残りだった友への墓参は叶いますが、恒例のゆいま~る那須行きをどうするか。私は9年前にゆいま~る那須との入居契約を結びました。しかし母親(今夏96歳を迎えます)の見守りのため、弟との3人暮らしを川崎市の自宅で過ごしています。

 ゆいま~る那須に行けるのは、会社勤めの弟が連休を取れる正月、5月のゴールデンウイーク、お盆の時期しかありません。短い日数でも滞在するのは、ゆいま~る那須居住者との交流を通し、少しでも那須での生活に慣れることが目的なのです。お盆に行かないとなると、次回の正月までには少し期間が空き過ぎてしまいます。

 

 ふと、思い出したのが藤城清治美術館のことでした。横浜に住む友人が那須藤城清治美術館行きを望んでいるのです。いつか一緒に行こうと話し合っていました。しかし前述したように、私が那須に行けるのは正月、5月、お盆の時期しかありません。この時期那須は観光客で大変混雑します(正月は美術館休館ですが)。時間に追われ忙しい思いをしてまで行きたくはありません。

 お盆にゆいま~る那須へ行かない代わりに、別の連休で行けないだろうか。そして友人との藤城清治美術館行も実行したい。そんな風に思いついたのです。

 暦を見ると11月3日~6日という4日間がありました。横浜の友人に相談したところ、ぜひその時期に行きたいとのことでした。ただ問題は11月4日の金曜日は平日で、弟の会社が出勤日ということです。この日に休みを取れれば連休になります。休みが取れるかどうか、まだ先のことなので、現時点では判別できません。

 

 さてどうしたものかと思っていたら、介護保険を利用してショートステイの方法があることを思いつきました。弟が休みを取れなかったら、母親を1泊のショートステイで施設のお世話になればいいのです。早速ケアマネジャーに伺ったところ、1泊4,000円前後の料金で済むとのことでした。

 しかし母親に話したところ、いきなり知らない所に泊まるのはイヤだという返事でした。そんな思いをする位なら、何もせず終日ベッドに横になっていると言います。

 そう、母親は内弁慶なのでした。以前デイサービス体験に行ったことがありました。しかし周りの人に気兼ねし、不自由で少しも楽しくないと言って、1日で止めたことがありました。ベッドに横になり、好きな美空ひばりのCDでも聞いている方がよっぽどいいと言うのです。

 

 そうは言っても、トイレに行かねばならず、昼食のこともあります。足の弱い母は、常に誰かが傍にいて見守る必要があるのです。するとケアマネジャーさんが、1泊という方法でなく、弟が出勤している日中に、3回ほど自宅を訪問して母親の様子を見る、「安心見守りサポート」もあるということを教えてくれました。ヘルパーさんに玄関の鍵を預けて、4時間おき位に来てもらい、昼食の準備などもしてもらえるのです。これなら急に環境が変わるという不安もなく、母親は自宅にいながら見守ってもらえるのです。

 

 という訳で、お盆には亡き友の墓参、秋には藤城清治美術館行という予定ができました。何か先の予定があるということは、いろいろ想像を巡らして気持ちに張りが出てくるものです。

 そう言えば、どこかで聞いたことがあります。人間には、特に老人には「キョウヨウ」と「キョウイク」が大切であると。

 「今日何か用があるという、キョウヨウ予定」そして「今日どこかに行くという、キョウイク予定」が。