木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第48回】 在宅診療に切り換えた母

 8月に入ってから連日の猛暑。そしてコロナ感染の増大。その中でマスクを付けての動きは辛いですね。私はお盆の前後には、ゆいま~る那須に4,5日滞在するのが毎年の恒例でした。5月のゴールデンウイークには行けなかったので、この夏にはぜひ行きたいと思っていました。

 行ったとしてもコロナ感染予防のため、外部からの訪問者は1週間というもの居住者の皆さんとは接触できません。食堂での食事も禁止され、自分の部屋での個食になると言われました。それでも久しぶりに訪ねることで、ゆいま~る那須の空気に触れるのが楽しみで、行く積りでした。

 

 しかし母親の身体状態が良くありません。この暑さのため食欲がなく、日毎弱っていく様子なのでした。間もなく95歳になる母です。万が一ということも考えられ、このお盆のゆいま~る那須行きは断念しました。そして定期的に母を診てもらっている医師に今後のことを相談しました。

 定期的に診てもらっていると言うのは、2か月に1度くらいの割合で、外来診察を受けていることです。母は現在これと言った持病はありません。少し便秘がちなのと脚のむくみがあるくらいです。薬を処方してもらい、そうした症状を和らげています。しかし最近は外来診察に行くのも渋るようになりました。タクシーを呼び、弱った足に難儀しながら病院にたどり着き、長い時間待たされて、数分間の問診を受け、またタクシーで家に帰るという半日がかりの通院がつらくなったのです。今回は暑気のため弱って、病院に行くのも出来なくなりました。

 

 そんな訳で、私ひとりが病院に赴き、今後は在宅診療に切り換えたいことを、主治医S氏に申し出ました。S医師は快諾してくれました。さっそくケアマネジャーに相談して、自宅近くのHクリニックを紹介してもらいました。

 すぐに初診に来てくれました。その頃は気温も少し下がった日が続き、母の状態も持ち直していました。血液検査の結果も悪くなく、月に2回定期的に在宅診療の方向で大丈夫という診断でした。HクリニックのN医師は女性で、とても話し掛けやすい方でした。こちらの言うことをよく聞いてくれます。

 

 初診からちょうど1週間目でした。予定がなかったのに、突然N医師がわが家へ訪問してきました。その日、母が95歳の誕生日ということで、花束を持ってお祝いに来てくれたのです。母はちょうど台所に立って、糠みそを漬けているところでした。N医師は母の元気な様子を見て、とても喜んでくれました。

 誕生日に、人さまから花束などもらったことのない母でした。思わぬ贈り物に驚いていました。まだ2度お会いしたばかりのお医者さんです。正直言って、母はそれまでは余りN医師に関心を持っていなかったようなのでした。クリニックの名称も医師の名も覚えていませんでした。

 次回在宅診察に来てくれた時には、ちゃんとお礼を言わねばと思ったようです。今では、「HクリニックのN医師さん」と、しっかり名前を記憶している母です。

 

 在宅診療にして良かったと思うことが2つあります。ひとつは緊急の時に駆けつけてくれるからです。超高齢の母は、いつ急変するか分りません。そんな時にいきなり救急車を呼ぶのでなく、そこにワンクッション置けるものがあることで、気持ちに安心感が出来ました。もうひとつは母の脚の痺れが抑えられるようになったことです。

 母は70歳の中頃から脚に違和感を持っていました。頚椎の神経からくるものと言われ、手術を勧められたこともあります。しかし手術をせず、自然に任せて現在に至っています。日に何度かは、脚に電流が流れるような痛みを抱えていました。でも頚椎の神経からくるものとして諦めていました。

 N医師にその旨を伝えたところ、試しにと神経を抑える薬を処方してくれました。服用してからまだ10日ほどですが、以前のような強い痛みがないのです。在宅診療では緩和治療にも力を入れているのでしょう。長年のつらい痛みが抑えられて、母はずいぶん楽になった様子です。

 早くこの猛暑が遠ざかり、エアコンを利用することなく、窓から吹いてくる風が心地よい季節になることを願う今日この頃です。