木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第36回】映画「瞽女GOZE」を観て

■この映画に寄せる監督の思い 

 このブログの30回目で、映画『瞽女GOZE』(瀧澤正治監督)のことを記しました。盲目の女旅芸人である、最後の瞽女と言われた新潟県三条市出身の故小林ハルさんの生涯を描いたものです。折りも折り、NHKラジオ深夜便の放送で、この映画に寄せる瀧澤正治監督の思いを聞く機会がありました。

  小林ハルさんの生き方に感動した監督は、何としてでもこの映画を作ると決意し、構想から完成までに17年間を費やしたそうです。家と土地を売って資金を作り、また多くの方々の支援を受けて出来上がったと言います。この話を聞いて、私はぜひ観なければと思いました。こんなにも情熱を傾けた映画ならば、きっと素晴らしいものであるに違いない。

  幸いにも先月、池袋にある映画館で観ることが出来ました。想像していた通りの良質な力のこもった作品でした。一番印象に残ったのは、盲目の我が子ハルを育てる母親の強い信念でした。盲目のハルを瞽女として生きていけるよう、母親は5歳のハルを厳しく躾けます。

 圧巻なのは、どうしても身に着けねばならぬ裁縫を教える場面でした。針穴に糸を通さねばなりません。畳針の大きなものから訓練し、いよいよ裁縫針に糸を通すところまできました。しかし目の不自由なハルには出来ません。晴眼者ですら難しい細かい作業です。我慢強いハルもさすがに音を上げました。

 母親は時には食事抜きの罰を与え、出来るまで許しません。ある日、見かねた祖母はハルに握り飯を与えようとします。それに気づいた母親は、「躾けの邪魔をしないで!」と姑を激しく怒鳴ります。鬼気迫る母親の姿に目を覆いたくなるほどです。

 ハルは針を口に含み、舌で針穴に触れることに気づきます。その感触を頼りに何度も失敗の末、ようやく針に糸を通すことができました。

 

■弟子を持って知る母の愛 

 8歳になり、初めて瞽女巡業の旅に出ました。そして意地悪な親方や優しい親方と出会い、ハルは一人前の瞽女に成長していきます。そうした中から、『いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修行』という信条が生まれてきます。いい人と一緒に旅をする時はお祭りのように楽しい。意地悪な人と旅をする時は、すべて修行だと思って耐えるという意味です。

 長じて親方になったハルは、幼い弟子ハナヨを迎え入れます。一人前の瞽女に育てようと、ハナヨを厳しく育てます。針穴に糸を通すことも課します。その難しさに泣きじゃくるハナヨを叱り、容赦しません。親方ハルのあまりの厳しさに、「鬼!」とハナヨは叫びます。言われたハルは、幼い時の記憶が蘇ります。「鬼!」 その言葉は正に、ハル自身が母親に向かって放った言葉なのでした。

 ハルは初めて母親の愛に気づくのでした。こんなにも自分のことを思ってくれたのだ。一番辛かったのは母なのだ! それが分らなかった自分は、何と愚かであったか。あの厳しさがあったから、自分は今こうして生きていけるのだ。『カカさ‥‥あり~がとう‥‥』 ハルは後悔と感謝の涙を流すのでした。

 この映画のチラシに、元NHK衛星映画劇場支配人の渡辺俊雄氏のコメントが載っていました。『久しぶりに涙腺が崩壊し、コロナのせいで少々緩んだ精神に鞭を入れられた気がした』とあります。私も全く同じ気持ちであります。

 

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        映画「瞽女GOZE」パンフレット

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■コロナ禍の映画館 

 映画と言えば、「鬼滅の刃」が大ヒットだそうです。興行収入は過去最短で100億円を超えたとのこと。東京新聞の社説にこんなことが載っていました。「皮肉なのはこの大ヒットが、コロナ禍にも起因する点だ。米ハリウッド作品の公開延期が続き、大入りが望める競合の大作はほとんどない。一方で、外出の自粛に飽きた人たちが、『そろそろ外で何か楽しみたい』と思った時、演劇や音楽など生身の人間が登場する公演よりも、映画なら飛沫感染などの危険性が低いとみられる点も、追い風になっているようだ」と。

 確かにそうでした。私の行った映画館も全席指定でした。間隔を空けて、隣に人が来ないようにしてあります。必ずマスク着用、飲食禁止でした。これなら安心です。そして飲食禁止もよかったです。上映中の飲食には「音やにおい」が気になります。そのために映画に集中できないこともありました。飲食禁止は今後も続けてほしい処置です。

 やはり大きな画面で広い空間の中で見る映画は格別なものがあります。唯いつも思うことは、映画館の音量は何故あんなに大きいかということです。臨場感を出すのが目的かと思いますが、私には不快にしか感じません。喧しいのです。

 私はどちらかと言うと耳が鈍感な方です。人と話していて聞き返すことも何度かあります。その私でさえうるさく感じるのです。なので、いつも映画館では耳栓を着けています。耳栓を通して聞こえてくるとちょうど良い音量になるのです。そのくらい映画館の音量は大きいのです。この点も映画館で善処してほしいものです。

 さて、この新型コロナウイルスはいつ収束するのでしょうか。これから寒くなると、感染力が益々強くなっていくというのも不安です。人と人が触れ合えず、近寄ってはいけないという事態は異常です。人類が月に行ける時代になっても、目に見えぬ小さなウイルスに翻弄されているのです。人間には計り知れぬ、自然界の厳しさと深さを思います。