木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第14回】 残り物には福がある

■よく利用する図書館
 わが家の近くにプラザ大師という文化施設があります。市民館と図書館のふたつの役割を持っています。市民館では、地域の人たちと交流をはかる各種サークルや、子育てママさんの集まり、シニア向けの各種講座などが開かれています。
 私が利用するのは図書館の方です。川崎市には7カ所の図書館と6カ所の図書分館があります。図書館は各区の主要駅に近い所にありますが、図書分館は駅から離れた地域に暮らす住民にも利用できるようにと、小規模ながら設けられたものです。プラザ大師は図書分館の方です。ただ呼称は普通に図書館と言っています。
 今の私は図書館に出向いて本を探すことはしません。読みたい本を決めたら、自宅のパソコンで図書館に予約をして、着メールが届いたらその本を受け取りに行きます。予約を希望する本は、市内13カ所ある図書館内から探してくれます。従って、分館利用だからと言って不利ということはありません。

■人気の「古本市」で…!
 先月そのプラザ大師で古本市が開かれました。ここでの古本市というのは、図書館内で古くなった本や寄贈された本を、無料で譲ってくれる年1回の催しです。図書館は予算に合わせ、定期的に新しい本を導入します。そのままにしておけば、館内は当然パンクしてしまいます。捨てるのでなく、再利用してもらうという趣旨で古本市を開くのです。なので、陳列された本の背表紙には、「リユース資料」というシールがしっかりと貼られています。一人10冊まで貰えます。
 古本市は大変人気があり、いつも混雑します。午前11時に始まるのですが、1時間ほど前から並んで待っている状態です。しかも開催室が12畳ほどの広さしかありません。一度に入場しきれないので、順番に少しずつ入れ替わって入室します。やはりいい本は早くなくなっていきます。だからこそ皆さん並んで待っているのでしょう。

 しかし今の私にはそこまでの熱意はありません。ましてや腰痛持ちです。とても真似ができません。でも、もしかしたら掘り出し物があるかも知れないという欲は抑えられません。なので、昼過ぎに行きました。その頃になると空いています。その代わり本も大分減っています。
 どうせ詰まらないものしか残ってないだろうと、入口近くのテーブルから順々に少しずつ奥へ進んでいきました。中頃まで来た時です。 「!」  私は足を止めました。『ひとたびはポプラに臥す』というタイトルが目に入ってきたのです。3巻と5巻が並んでいました。思わず掴みました。
 この本、『ひとたびはポプラに臥す』(講談社)は、作家・宮本輝氏が鳩摩羅什(くまらじゅう)に憧れて、シルクロードを旅した時の紀行文なのです。読んでみたいと思いながら、つい読みそびれていた本でした。しかも文庫でなく単行本です。写真もふんだんに載っています。

 他の巻もないかと目を走らせました。ありました。隣のテーブルに2巻が、さらに6巻もありました。もしかしたらという期待感が出てきました。よく探せば残りの巻もあるかも知れない。4冊をしっかりと手に握り、ちょっとドキドキしながら室内を回りました。
 そしてついに残りの1巻と4巻も見つけたのです。なんと全6巻が揃いました。これは掘り出し物です。よくぞ残っていてくれたものでした。私は有難く頂きました。

 

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全6巻揃いました


■旅に出たいきさつ

 家に帰り、早速「まえがき」を読むと、宮本輝氏がシルクロード6,700キロの旅に出たいきさつが書かれていました。次のような内容です。

 

 鳩摩羅什はいまから1,700年近い昔に生きた中国南北朝時代の人です。はるばるシルクロードを旅し、サンスクリット語の膨大な経典の漢語訳を生涯の仕事とされました。彼の漢訳経典なくしては、現在の仏教の流布は有り得ないと言われています。
 鳩摩羅什の生き方に尊敬の念を抱いた宮本氏は、いつの日か鳩摩羅什が歩いたシルクロードを通ってみたいと思っていたそうです。しかしその機会を得ないまま、20年以上が過ぎてしまいました。
 平成7年1月、阪神・淡路大地震が起こり、伊丹市にある氏の家も壊れてしまいまし

た。当日、氏は富山市にいて、幸運に家族も無事でした。帰宅して悲惨なありさまの書斎を見て、もしかしたら自分は死んでいたかも知れないと、慄然としたそうです。著述業の氏は自宅の書斎に居ることが多いので、その可能性は大なのでした。
 後日ふとしたことが切っ掛けとなり、鳩摩羅什が歩いた道を通ってみたいという氏の思いを、某新聞社が全面的に支援すると申し出たのです。そう言われて、氏は初めてその旅の過酷さに臆するのでした。
 しかし、もしかしたら自分はあの大地震で死んでいたかも知れないのだ。それを思えばどんな過酷な旅でも‥‥。 こうしてその年の5月下旬、宮本氏は西安からパキスタンイスラマバードに至る、シルクロード6,700キロの車中旅に出たのでした。『ひとたびはポプラに臥す』は、その約40日間の紀行文です。

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1巻~3巻の表紙

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4巻~6巻の表紙

 

■年末年始のお楽しみ
 宮本氏は私の好きな作家で、氏の小説は何度か映画化されたりしています。しかし紀行文はまだ読んだことがありません。きっと面白いと思います。古本市にノコノコ遅れてやって来た私です。よくぞ全6巻残っていたものです。「残り物には福がある」というのは、こういうことを言うのでしょうか。
 この年末年始は、ゆいま~る那須に4泊5日の滞在をする予定です。此処には食堂があり、自分で食事の支度をする時間が省けます。年越しそばやおせち料理も味わえます。日頃の雑事から解放され、自由な時間がたっぷり取れます。ぜひこの本を持ち寄り、宮本輝氏が旅したシルクロードを辿ってみたいと思います。