木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第9回】私もがんサバイバー

 第5回目のブログで医師・垣添忠生氏のことに触れました。現在、公益財団法人日本対がん協会会長も務められて、がんに関する様々な活動をされています。氏ご自身もがんサバイバーということですが、早期発見、早期治療で完全治癒したことから、特にがん検診の大切さを説いています。

 実は私もがんサバイバーなのです。直腸がんでした。幸い人工肛門にならず、再発・転移も免れました。しかし手術後の後遺症により尿が出にくくなり、手術後13年経った今でも自己導尿という処置を取っている状態です。これは取りも直さず、がん検診を軽んじた報いです。深く後悔しています。反省の意味も込め、私のがんについて述べたいと思います。

 

f:id:yu5na2su7:20191002152401j:plain

自らもがんを患った垣添忠生医師(NHK Eテレ「こころの時代」3月31日放映)

■直腸がんが見つかった
 私は2006年に直腸がんが見つかり開腹手術をしました。58歳でした。実は、その直腸がんが判明する1年前に、がん検診で大腸がんの便潜血検査を受けていたのです。そして陽性という結果が出ていたのです。それにもかかわらず、私は精密検査を受けに行きませんでした。
 今から考えると空恐ろしい思い上がりですが、「俺ががんになんかなる筈がない、これは何かの間違いだ」という、盲信に近い頑固な思い込みがあったのです。陽性結果が出たのは、たまたま痔が出たに過ぎないのだと自己判断しました。
 そんな自分ですから、便潜血検査で陽性が出たことすら、数日で忘れてしまっていました。それまで病気らしい病気をしたことのない私は、病に対していかに傲慢であったことか。
 そして放置したあげく1年後に手術をすることになりました。大腸がんはステージⅣが一番進行しているといわれる中で、私はステージⅢA。再発率も高い進行がんでした。
 2006年の頃には、がんであることを本人に知らせる時代になっていました。医師からは、生検の結果、悪性の腫瘍つまりがんであると、事務的に伝えられました。やはりそうだったかという思いと、どこかまだ他人事のような気持ちが交錯していました。
 病院を出ると、昼の2時頃になっていました。近くのラーメン屋に入って、遅い昼食をとりました。一口、箸をつけたところ、その店主はスープに味付けをするのを忘れたのか、まるで白湯につけたようなラーメンでした。文句を言うのも面倒に思い、そのまま食べました。
 今から思えば、客商売のラーメン屋がスープの味付けを忘れる筈はありません。がんと告知されたショックによる味覚障害を起こしていたのです。

 

■手術後の影響
 そして、手術により自律神経を傷つけ、尿閉という障害も併発してしまいました。尿閉とは自力で尿が出せなくなることです。膀胱内には尿が溜まっているのに、尿意を感じないのです。そのため時間を決めて、カテーテルという管を使って強制的に排出させるのです。これを自己導尿といいます。現在では、日に3回の処置で済む状態になりましたが、6年前までは排尿のつど毎回自己導尿が必要でした。
 また、直腸を切除したことにより、便を溜める機能を失いました。それゆえ頻便といって、トイレに何回も行くことになります。現在では直腸に代わる機能が働くようになったのか、頻便の度合いもだいぶ収まりましたが、それでも完全ではありません。
 こうしたことも、手術後に分かったことです。直腸に腫瘍が出来たから、ただ直腸を切って治せばいいというものではなかったのです。大きな病気の後には、後遺症というのもあるのでした。

 手術前に家庭医学書を読んではみました。そこには確かに、自律神経を傷つけると排尿障害が出るとありました。しかし現在は自律神経温存手術を行っているので安心だと書いてあったのです。
 ところが私の受けた手術は自律神経温存手術ではありませんでした。後から調べると、自律神経温存手術は高度な技術を要するものであり、それを受けるためには直腸がん専門医に診てもらうこととありました。ひと口に大腸がんと言っても、結腸部と直腸とでは大きな違いがあるのでした。
 このことから、医学書などを読む場合には、1冊だけ読んで鵜呑みにするのでなく、何冊かを読み比べる必要があることを、切に思い知りました。

 

■化学療法と検査を経て
 多くのがんは自覚症状がない内に進行していると言われます。逆に言えば、自覚症状があった時には、かなり進行しているのです。だからこそ、がん検診が大事なのです。
 私の場合、便潜血検査で陽性が出た時に精密検査を受けていたならば、もしかしたら早期発見の段階で、腹腔鏡下手術で済んだかも知れません。腹腔鏡下手術ならば自律神経を傷つけることもなく、尿閉という障害も併発しなかったでしょう。
 これはもちろん仮定の話です。精密検査を受けても、その時点でかなり進行していたかも知れません。しかし、気持ちの上で大きな違いがあります。出来るだけのことはした、最善は尽くしたということで、自分なりに納得がいくではありませんか。

 ステージⅢAという進行がんだったので、術後補助化学療法として抗がん剤を1年間服用しました。再発を防ぐ可能性を高めるためです。また術後5年間は定期的にCT検査や大腸内視鏡検査を受けました。検査の後、結果が分かるまでの数日間は不安でした。いつ再発・転移しているか分からないからです。
 また大腸内視鏡検査では、必ず1、2個の腺腫というポリープが発見されました。その都度つまみ取ってもらいましたが、ポリープの出来やすい体質だと言われました。
 人工肛門にならず、再発・転移も免れたので、私は主治医に感謝すべきでした。しかし手術で自律神経を傷つけ、尿閉となり自己導尿をしなければならなくなったことで、私は心から感謝をすることが出来ませんでした。
 もっと大きな病院に行っていたなら、違う先生に執刀してもらったならば、などと疑惑や迷いの気持ちを抱いていました。お世話になりながら、心の底でそんなことを思わずにいられないのはつらいことでした。

 

■謙虚に素直に検診を受け続けよう
 しかし手術をしてから7年が経った2013年頃から、少しずつではありますが自力で尿が出せるようになりました。何より嬉しかったのは外出が自由に出来ることでした。ちょっとした外出なら自己導尿の道具を持ち歩かなくても済んだことです。
 何年かぶりに友人たちと外食をしたり、カラオケスナックにも行けるようになりました。気持ちが前向きになり、老後のことを考える余裕も出来ました。自分にもまだ将来があると思えてきたのです。そして「ゆいま~る那須」のことを知り、入居契約をするまでになりました。
 世の中には、私などよりももっと大変な障害を抱え、それでも明るく生きておられる方は沢山います。私など障害の内に入らないかも知れません。それでも道具を使わねば排尿できないことは、将来に対する大きな不安でした。

 つくづく健康の大切さを思います。繰り返しになりますが、多くのがんは初期の段階では自覚症状がないと言われます。それゆえ健康診査・がん検診が大事なのです。ちょっとでも異常が見つかったら精密検査を受けることです。
    変な言い方ですが、せっかくがんサバイバーになれたのです。この経験を無駄にしたら本当に愚か者です。過去の己の傲慢さと思い上がりを深く反省し、謙虚さと素直さを持って、これからも健康診断を受け続けます。

 f:id:yu5na2su7:20191002151936j:plain