木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第54回】梅が香や

 ようやく春の兆しが見えてきました。空を見ると少し眩しいほどの陽のひかりです。それにしても今年は例年になく寒い冬でした。加えて新型コロナオミクロン株の感染者が増えて、いっそう寒々しく感じる日々でした。できるだけ外に出たくない、家に居たい。そんな気分でした。

 それなのに皮肉なことに、いつになく外出の多い日々を過ごさねばなりませんでした。歯科クリニック通いが続いたのです。自転車で15分位の道のりですが、風が冷たく迫ってきます。コロナ感染防止のためマスクをしているのですが、眼鏡をかけているので息で曇ります。視界が悪く、自転車だと危険でもあります。悪い時期にぶつかったものです。

 

 私は奥歯が左右とも2本ずつありません。虫歯で失ってしまったのです。ものを噛むのに一番肝心な部分です。従って部分入れ歯を挿入しています。右側はもう10年以上前からです。左側は1年ほど前に入れました。

 右側は具合が良くて、入れ歯をしていることを感じない位です。しかし左側が良くないのです。ものを噛むと少し痛いのです。調整してもらったのですが、どうもしっくりきません。対策として、先ず右側の奥歯で噛み、柔らかく細かくなったところで左側の奥歯も使う。そうすることで左側の痛みを和らげていました。

 

 昨年末のことです。歯の定期検診がありました(私の通っている歯科クリニックは半年に1回の割合で、定期的に診てくれるのです)。私は就寝前には必ず歯磨きをしています。糸楊枝と歯間ブラシも使い、20分ほどかけて磨きます。医師からは「よく磨けています」と褒められました。気を良くした私は軽い気持ちで、左側の部分入れ歯が合わないことを口にしました。医師は診てくれました。そして、「新しく作り直すこともひとつの方法だ」と提案してくれたのです。

 実は担当の医師が変わったのです。1年前に作った時の医師は、作り直すことは言ってくれませんでした。私はすぐに頼みました。型を取って調整し、自分の口に馴染むのにひと月くらいあればいい筈です。新年からは痛くない歯で楽にものが噛める。そう思うと面倒な歯科クリニック通いも我慢ができると思いました。

 

 そして12月初旬に新しい部分入れ歯が出来上がりました。ところが翌日になると痛くて噛めません。合ってないのです。1週間後の予約日までは、右側の奥歯だけでものを噛みました。そうして再び調整してもらいました。ところが4,5日もするとまた痛み出しました。その後も微妙なところで痛みが出るのでした。そんなこんなで、1月と2月中で8回も歯科クリニック通いをすることになってしまいました。

 今度の担当医師は、まだ技術的に慣れていないようです。部分入れ歯作製でこんなに回数を要するのは、未熟なのかも知れません。しかし私は少しも嫌ではありませんでした。それは応対がとても丁寧だったからです。言葉遣いも態度も優しく親切なのです。何よりもこちらの言い分を良く聞いてくれます。1年前の医師は、調整を2度ばかりしましたが、あとは「暫らく様子を見るように」と言って相手をしてくれませんでした。

 やはり部分入れ歯には限界があるのだろうか。いっそインプラントにしてみようかなどと、いろいろ考えたものでした。しかしインプラントこそ技術を要します。どんな歯科医が良いのかと、本を読んだりネットで検索してみたりと、かなり時間をかけて調べましたが実行に至りませんでした。

 

 ともかく8回ほど通い、ようやく違和感なく痛くない部分入れ歯になりました。寒い中を通った甲斐があったというものです。

 少し暖かくなったので、梅見に行って来ました。まだ5分咲きという感じでした。ここ1週間ほどで一気に花開くかも知れません。ようやく春の季節です。これからは外出も苦になりません。あとは新型コロナウイルス感染が収束するのを待つばかりです。

 それにしても歯の具合が良いということは、なんと気持ちのよいことでしょう。そうです、歯の存在すら忘れているということこそが、具合の良いということなのです。こんな気分は数十年ぶりです。口を大きく開けて、思いっきり梅の大気を吸い込んでみました。

 しかし一向に梅の香りがしません。鼻がわるいのでしょうか。それともまだ香りが立つほどに咲いていないからでしょうか。ちょっと物足りない梅見ではありました。

 

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