木もれ陽ベンチ

神奈川県川崎市在住の70代後半男性。栃木県那須町の高齢者住宅「ゆいま~る那須」を契約。90代後半の母の介護があり完全移住ではありません。現在は別荘気分で使用しています。

【第75回】お店選び

 早いもので今年も残りひと月となりました。ついこの間まで暑い暑いと叫んでいたと思ったら、もう暖房器具が手放せないこの頃です。一体秋はどこに行ってしまったのかという思いです。暑からず寒からずの、季節の中で最も心地良いあの秋がです。

 極端に言えば、日本気候は暑いか寒いかのどちらかだけになってしまったみたいです。その内に四季という言葉が使えなくなってくるのではないでしょうか。まさかそんなこともないでしょうが、昔から比べると春や秋の期間が短くなってきたのは確かなようです。

 

 さて12月というと忘年会シーズンです。ゆいま~る那須掲示板には「望年会」と書かれていましたが、これはいい表現です。その年を忘れ去るのでなく、来る年に望みを抱くという明るさがあります。私も年末には親しい人との望年会を楽しんでいます。

 私の住む川崎駅周辺は居酒屋がたくさんあります。何かの集まりがある度に利用しています。そして同じ店で宴会するのではなく、できるだけ違った店を利用したいと思っています。今回はそんな時の私のお店選びを述べたいと思います。

 

 ネットで検索するのですが、先ず料金です。宴会コースで1人当たり大体4,000円くらいを目途にします。やはり駅に近い店は高いです。駅から少し離れた徒歩10分くらいのところを探すと、手頃な値段で営業しています。次にそれが飲み放題付きであることが肝要です。仲間はアルコール好きで1,2杯では済みません。金の心配をしながら飲んでいては酔えないです。心置きなく飲めるよう「飲み放題」に限ります。そして料理ですが7,8品くらい出るのが一般です。宴会コースはいちいち注文する手間が要らないので楽です。そうやって2時間くらいで飲食し、酔いもお腹も満たされると予想できればOKです。

 いよいよ予約する前に私は必ずその店を見に行きます。実際に店構えを見て、その雰囲気に違和感を抱かないか確かめます。ネットだけでは果たしてどんな店なのか分らないからです。こんなことが出来るのも、自宅が駅前に近いからなのでしょう。勿論当たり外れはありますが、これもお店選びの楽しみのひとつです。

 

 そう、お店と言えば前々回でカラオケ店のことを述べました。自宅に近くて格安でカラオケ設備も良い店なのに、集まるお客さんと波長が合わないので、どうしょうかといった話でした。私は演歌が好きで、じっくりとその情緒に浸りたいのに、他のお客さんは今風の賑やかな(私にすればウルサイだけの)歌を好むという、客層違いの悩みでした。

 あれから2度ばかり行ってみました。やはり駄目でした。若いお客が多く、誰かが歌っている間は、仲間同士しきりに喋りこんで、唄っている人の歌を聞くということもありません。テンポが速く意味の分らない歌が流れます。そんな中では演歌の詞などかき消されてしまいます。何か浮いた感じになり正に場違いです。

 

 私はその店に行くのは止めました。週に1度くらいは夕食後ふらっと立ち寄れる、自宅近くの格安なカラオケ店でしたが残念です。自分はやはり家でひとり、ユーチューブ相手に唄うのが似合っているのでしょう。ただ家で唄う時は大きな声は出せません。どうしても声をセーブします。カラオケの良いところは、大きな声を出せることです。エコーもかかりその歌の世界に浸れます。

 そんなことを思っていた時、ふと頭に浮かんだことがありました。自宅から自転車で5分位のところにある古びた建物です。掘っ立て小屋という表現がぴったりの粗末な建ものです。そこにカラオケという文字が書いてあったのを思い出したのです。もしかしたらその建ものはカラオケ店なのかも知れない。パッとしない小屋なのでそれっきり忘れていたのですが、もしお店ならばちょっと覗いてみようという気になったのです。気持ちの中に、やはりカラオケ店で唄いたいという未練が強かったからなのでしょう。

 

 行ってみました。やはりカラオケ店でした。間口が狭くテーブル席が1つであとはカウンターという、10名ほどで満席になる店内でした。先客が4名いました。なんと唄っている歌は演歌でした。それもかなり上手なのです。仲間が唄っている時は静かに聞いているか、小声で話し合う気配りがありました。

 店主も歌好きで、客の合間に唄います。私も早速唄ってみました。音響設備も悪くありません。カラオケ画面も鮮明できれいです。私が唄い終わると自然に拍手が湧きました。そうやってお互いに交流しようという雰囲気がありました。とてもいい感じです。

ここは1曲唄うと100円支払うシステムです。お酒やお茶、おつまみも注文できます。粗末な店構えなので、お手洗いはどうなのか心配しましたが、ゆったりとした広さがあり清潔で安心しました。

 

 4回ほど通いましたが、雰囲気は初めての時と変わりません。客層が私にはぴったりの店でした。どうやら店主はカラオケ好きが高じて、自宅の空き地にこうした建物をたて、定年後に店として看板を出したのではないかと思います。なので店構えにはあまり気を使っていないのです。はっきり伺ったわけではありませんが、常連客とのやりとりを聞いていると、どうもそんな感じです。定年後のひとつの生き方として、こうした老後の過ごし方も悪くありません。

 不思議なもので、通いはじめている内に店への印象も変わりました。掘っ立て小屋だった建物も、それなりに味のある、懐かしい友人宅のように思えてきました。お店は豪華な構えや洒落た感じよりも、その店の雰囲気や客層が自分に合っているかどうかが大事だということを、改めて思った次第です。居心地のいい飾らぬカラオケ店に乾杯!